矢吹丈はとうとうバンタム級チャンピオンのホセ・メンドーサとの試合まであと1時間という所まできていた。
その試合を控えた丈は自分の試合の観客たちの長蛇の列見る。
世界チャンピオンに挑むという現実には自分でもきっと驚いているだろう。
彼はもともと施設で育った不良少年だった。
その生活に嫌気がさし施設を脱走。
それがたまたま東京のドヤ街にふらりと現れ、丹下段平に出会い、少年院で力石徹に出会い、ボクシングの魅力に憑りつかれこの武道館での試合だ。
「おいジョー 記者さんたちが・・・」
「すまねえがひとりにしといてくれねえか・・・」
取材についてジョーに話を切り出す恩人の段平。
だが、ジョーは「ひとりにしてくれ」と返事をする。
「さあほれ!」とジムの門下生たちを外に出す。
この世界チャンピオンとの戦いまでいつも一緒に居た段平。
”いつものジョー”と違う事を察し、部屋から出て行く。
再び窓の外を眺める丈。
それを見て彼が今何を考えているかは誰にも分からない。
誰もいないハズの控室に白木葉子が来ていた。
「こんばんわ 矢吹くん・・・」
「さんざん逃げまわったけどこの武道館の控え室にだけはやってこないわけにはいかなかったわね」
葉子の言う通り、丈はこの日まで葉子から逃げ回っていた。
電話が鳴っても無視。
葉子が来れば居留守。
手紙なども送ったが、丈はそれでも読まなかった。
そこまで無視をされた葉子だが、どうしても丈に伝えなくてはならないことがあった。
「矢吹くん リングへあがるのはおやめなさい!」
世界チャンピオンとの戦いを目前に控えている丈に「試合を中止しろ」という葉子。
彼女がどうしてもそれを早く伝えたかった理由、それは…
「矢吹くん…あなたの全身はパンチ・ドランカー症状にむしばまれています」
「しかもそうとう重症の・・・!」
パンチドランカー症状。外傷性ボクサー脳症。
簡単に言うと、頭部への衝撃で脳がおかしくなってしまう。
丈のライバルであるカーロス・リベラがその症状に侵された。
一度はダメになってしまったボクサーとしての自分を蘇らせたカーロス。
言葉より拳で会話をしていたライバルであり”親友”でもあるカーロス。
再会したカーロスはパンチドランカー症状により変わり果てた姿だった。
着ている服のボタンもまともにつけられず、自分が誰かも伝えられない。
だが、それでもジョーと戦った時の興奮だけは忘れなかったカーロス。
ジョーはそんな変わり果てたカーロスを見て、パンチドランカー症状の事を理解していた。
葉子は今、丈がその症状にある事を伝えた。
それを聞いたジョーの返事は…
「だからどうした」
「だから・・・どうした・・・?」
葉子はその返事を聞いて驚いた。
だが、彼女は丈を止めなくてはならない。
「そのからだでリングにあがりあのホセ・メンドーサの猛威にさらされればあなたは一生を廃人として送ることになるんですよ」
「あのかわいそうなカーロス・リベラのように!!」
「カーロスのことは口にするなよ」
「あんたがカーロスのことを口にしちゃいけねえ」
丈がやっとまともに口を開いたかと思えば自分の戦友、カーロスの事を注意しただけだった。
「いまさら今夜の試合を中止するとなれば当然莫大な違約金をチャンピオンや主催者たちに支払わなければならないでしょう」
「それは全額わたしが負担します」
お金の問題で丈が試合放棄を断っているようには見えないが、葉子は自分の白木財閥が違約金を払うとまで言っている。
「ですから・・・」
「おねがいだからいますぐ引退を発表して!!」
そう頼む葉子だが、丈は無視。
「ま…まさか…」
「まさか知っていて・・・」
「廃人になる運命を覚悟のうえでリングにあがるというのではないでしょうね・・・!?」
「以前からうすうす知っちゃいたさ 自分のからだだよ」
丈も自分の体の違和感に気付いていた。
だが、彼の意思は全く変わらない。
「せっかくだが出てってくれ」
パンチドランカー症状の話をした所で丈の気持ちは変わらない。
葉子に控え室から出て行くように言う。
「あんたが出ていかないのならおれが出ていくぜ」
そう言い、控え室から出て行こうとする丈。
「待ってよ矢吹くん!」
「お・・・おねがい 待ってちょうだい」
そう言う葉子の目からは涙が溢れていた。
「たのむから・・・リングへあがるのだけはやめて・・・」
「一生のおねがい・・・!!」
涙を流しながらそう頼む葉子。
もう彼女には丈を説得する言葉を持ち合わせていない。
だが、彼女はそれでも丈を止めた。
そんな葉子を見て丈は…
「ま・・・心配してくれてるらしい 光栄だね」
「ありがとうよ」
と、葉子が涙したことには驚いたがそれだけだった。
そう言い、控え室から出て行こうとすると…
葉子は走った。
背中で扉を抑え、言う。
「すきなのよ矢吹くん あなたが!!」
「すきだったのよ・・・最近まで気がつかなかったけど」
葉子がそこまでして丈を止める理由。
それは丈を愛していたから。
「この世でいちばん愛する人を・・・」
「廃人となる運命の待つリングへあげることはぜったいにできない!!」
今まで何度も顔を合わせれば喧嘩をしてきた二人だった。
そして最終的にはどれだけの連絡手段を使った所で無視をされた葉子。
だが、彼女は丈を愛していた。
そんな丈をカーロスと同じ運命だけはしたくない。
扉の奥からは段平の呼ぶ声が聞こえた。
「おいジョー どうしたあけろ!」
扉が開かない事に違和感を感じる段平。
「そろそろ出番だぞ なにしとるあけんかジョーッ」
どんなに段平が扉を叩こうと、葉子は動かない。
丈をリングにあげる訳にはいかないからだ。
ジョーは立ち上がり、葉子の前まで行く。
「リングには世界一の男 ホセ・メンドーサがおれを待っているんだ」
「だから・・・いかなくっちゃ」
「矢吹くん・・・・・・!」
「ありがとう・・・」
葉子の告白を聞いた丈。
葉子の目を見て礼を言った。
だが、それでも
リングの上で自分を待つ
世界チャンピオンのホセ・メンドーサとの
最後の戦いへ
向かったのであった。
・
・
・
え?いつから好きだったの?
というのを初めてアニメ版みた時に思ったのが忘れられません。
ジョーもかなりびっくりしてるように見えます。
パンチドランカーの話聞いても「だからどうした」と超強気なのに、葉子の告白については確実に「マジか…」って顔してました。
と、いう訳で今回はあしたのジョーの白木葉子はいつから矢吹丈が好きだったのか?というのを考える回にしたいと思います。
【▼前回:紀子編】
☆白木葉子とは何者なのか?
あしたのジョーに登場する女性。
「白木財閥」の令嬢。白木ボクシングジムも「白木財閥」が経営していたようで、ジョーのライバル「力石徹」とも知り合いであり、仲良しだった様子。
彼女の初登場は単行本の2巻から。
ジョーの裁判での時だ。
「暴力 窃盗 詐欺 恐喝等」
「少年にあるまじき悪事をかさねていった」
「東光特等少年院に送致するっ」
裁判官の判決は「少年院送り」ということ。
ドヤ街に流れ込んできたジョーは自分の好きかってした結果がこれ。
そんなジョーが警察に連れられ、護送車に向かっている時に…
「あの へんにとりすました女は何者だい?」
ジョーの心当たりはなかった。
「新聞での寄付金詐欺をやったとき十万円もの大金を寄付した人がいただろう」
「それがあの人なんだ」
ジョーは恵まれない子供達に寄付を~などと新聞を使い、寄付金を集めた。
だが、それはもちろん詐欺。
その寄付金詐欺の被害者が白木葉子。
そんな葉子にジョーは声をかける。
「へへへっようようおじょうさま!」
「こんなおれのすがたを見てすこしは腹の虫がおさまったかい?」
「十万円もの大金をぽんと投げ出すなんざよっぽど上流家庭のおじょうさんなんだろうが」
「その十万円で「ああ あたしはなんてあわれみぶかいんだろう」なんて自己満足が買えるんだから安いもんさ」
「なあ!おまけにその金でとっつかまるやつの醜態をこうまのあたりに見られるんだけっこうじゃないか」
撤回で。
クズすぎる。クズすぎるぞ初期のジョー。
全然カッコよくない!何この人!いや!!いやっ!!!
そんなゴミクズ野郎の矢吹丈の言葉を聞いた葉子。
善意で寄付したうえ、詐欺。
そしてこの謎の罵声。
ただでさえ詐欺に合い心が弱ってるであろう葉子はジョーからそう言われると、表情を見てもらえばわかる通り…
ノーダメージだった。
本来ならば、少年院に入った矢吹ジョーと白木葉子。
加害者と被害者なだけで、もう会う事もないハズだ。
だが、この時からこの二人の運命は大きく交わる事となる。
少年院でも中々の傾きっぷりを披露するジョー。
入所二日目にて脱走を企てるが…
その脱走は失敗に終わる。
その脱走を阻止したのが…
力石徹。
ケンカの強さが自慢でその強さに丹下段平も惚れ込み、ジョーをスカウトしてボクシングをやらせようと思ったくらいだが…
力石強し。ジョーは完敗。
それもそのはず。
相手の力石はウェルター級のボクサー。
客のヤジにカッとなり暴力事件を起こしていなければ少年院なんぞに居るはずもないプロボクサーだったからだ。
完敗したジョーは段平に仕込まれてたボクシングなんぞ何も面白くはないと思っていたが…
ジョーの方から段平に特訓の催促。
鑑別所にいた頃に段平から一方的に通信教育としてジャブやストレートに関するハガキを送られていた。
今までは暇つぶしにくらいしかそのハガキの内容を実践しなかったジョーだが、力石と出会ってからは違った。
そんな自らボクシングに目覚めてくれたジョーに感動する段平。
「通信教育なんてなまっちょろいことはいわねえ!いますぐ特訓をさずけにおめえにあいにいってやるぜっ」
全然駄目だった。
段平、ジョーの居る少年院まで向かうも、全然会わせてもらえなかった。
「かえんなさい」「そ…そういわずそこをなんとか…」
そんな段平が頭を下げまくっているのと同時に…
少年院の慰問する劇団。
そしてその中に…
詐欺被害者:白木葉子
葉子は学生劇団員を引き連れて毎週日曜日に劇を見せるために少年院まで来ていた。
もう会うハズのない葉子とジョーは再びこの少年院で巡り合うこととなる。
そして、ジョーに会うために少年院まで来たが追い返されそうになった段平にも好機が。
「あなたにちょっとおねがいしたいことがあるの」
段平は葉子の願いを聞く事で、少年院の中へ入れる事に。
その願いというのが…
演劇でエキストラ出演。
ムチを打たれるシーンによりリアリティを出すため段平にその打たれてる方の役を依頼する。
「あ…あれが学生の演劇か…それにしちゃあずいぶん迫力があるな」と、演劇を見ていたジョーも驚く。
「なんやおまえ知らんのかいな この学生劇団は演出から脚本舞台装置まで白木とかいう女団長がきりまわしておるそうや」と、解説をしてくれる西。
少年院で劇を見てる奴らの目的はみんなその女団長白木葉子を見るため。
エスメラルダに扮した葉子は「まあかわいそうに」と演技をしている時…
「あの女は…家庭裁判所でこのおれをつめたいさげすみの目でじっと見ていたやつ…」と葉子に気付くジョー。そして…
ムチでボコボコにされていたのが段平だと気付く。
家庭裁判所での目、そして迫力を出すためだけにタフな段平にムチを打つことを考えた葉子がとにかく気にいらないジョー。
葉子主演の劇は続く。
~エスメラルダは愛にみちたやさしい娘~
葉子の演技を見ていた力石の感想は…
「へへ へへへ…」だった。
そんな葉子主演の劇を見たジョーの感想は…
「エスメラルダそのものは愛にみちてはいるかもしれないが役者がいけないね」
「そのなんとか葉子って女がよ」
「とんだミス・キャストだ!」
と、ボロカス言って退場。
ムチを打った葉子より全然酷いと思う。ウン。
ボロカス言われたエスメラルダ葉子。
真剣に演じていたのにそこまで言われた葉子は表情を見てもらえばわかる通り…
イラついてた。
葉子、我慢できず。
「わけをいってくださいっ」
「はっきりここで理由をうかがおうではありませんかっ」
詐欺野郎にミス・キャストと言われた事に立腹のエスメラルダ葉子。
その理由をジョーに尋ねると…
「そうよ目つきだ!ありゃあどうひいきめに見たって愛にみちた娘の目つきなんてもんじゃなかったねっ つめたかったぜ!氷のようにするどかった! 徹底してさげすみにみちていた!」と、裁判所で見られた時の事を言う。
この目か。
こんな目で見られたジョーは
「特等少年院送りをかくごしてじたばただけはするまいと観念していたおれが思わずわめきたてたほどにな!ええ?」
それは詐欺を働いたんだからそんな目で見られても当然だろと言われるがジョーは続ける。
「たかだか十万円ぽっちのことでうらぎられたからって腹をたてるくらいなら」
「少年院を慰問して愛を説くなんて」
「おこがましいまねをするなってんだ!」
と、心が荒みすぎてて私には理解できない理論を展開するジョー。
これには葉子も黙っていられない。
「丹下段平氏や子どもたちが院内へはいれるようにとりはからい またあなたを反省房から出してもらうように手を打ったのはわたしのさせてもらったことよ」とジョーに伝える。そこまでしてやったのになぜ礼のひとつも言えないのか、と。
「そしておれが感謝感激してなみだをこぼさなけりゃまたそこで腹をたてるんだ…」とすぐさま反撃。だが、彼の話はまだ終わっていない。
「つまり万事が恩きせがましいんだよ はるか雲の上から優越感でやってることなんだ うわべだけの愛 かたちだけの親切」
「いわばすべてにせものなんだな」
どういう人生を送ったらそんな酷い事が言えるんだ?と、問いたい所ではあるがそんな事を言われたって表情を見て分かる通りエスメラルダ葉子は…
葉子…?(; ・`д・´)
そう言われた葉子は何か焦ってるような表情にも見えなくもない。
そしてジョーに言う。
「おだまりなさいっ」
あれ。否定とかじゃなくて「黙れ」なの?
「そーらそれが正体さ おれは理屈なんてのはにがてだがもしかすると葉子おじょうさまよ…あんた」
「おれやここにいるあわれなれんじゅうのためじゃなく」
「自分のためにこんな慈善事業をやる必要があるんじゃないのかね え?自分のためによ」
自分より「下」だと思われるものに形だけの愛を振りまき、優越感を得るために慈善事業をしていると言い始めるジョー。
優越感のために、自分のために慰問演劇をしていると言うジョー。
裁判所で見た目、あんな目で自分を見た葉子はきっとそうであると言うジョー。
ひどい。(;´Д`)
なんて酷い事をサラサラと言えるんだジョー。
そんな暴言を言われた葉子の表情を見てもらえば全てが分かる通り
多分図星。
少年院を出たら白木葉子の元ボクサーとしてカムバック予定の力石。
少年院内で問題を起こせば当然カムバックの話も危なくなってくるのだが、それでもジョーの発言にはキレた。
そこで段平が言う。
「どうせやるんなら堂々と正式の拳闘でケリをつけたらどうなんだい」
そう、ボクシング。
それならばケンカでなくスポーツだから良いだろうと踏んだ。
その話に力石は乗る。そして…
「第一ラウンド…じゃねえ 一分間よ!」
1分間KO予告をする。
ジョーは打倒力石に燃える。
・
・
・
・
葉子さん…。
マジでいつ好きになったの?
【▼後編へ続く】